投球前の立ち方
投球前の静止状態について。
投球前になによりも気をつけるべきポイントは、「身体が安定しているかどうか」になります。
人間は2本の脚が横に並んでついているので、横に不安定になることは少ないのですが、
前後に不安定な状態というのは簡単に起こります。
いやいや、バランスをとるのなんて簡単だ、と思う人もいますが、ぱっと見の状態でのはなし。
身体内部では、脚や腰や首や腹筋背筋がバランスをとっています。
特に多いのが前かがみの状態。
この状態では、身体の後ろ側の筋肉が緊張して、前に倒れないように身体を支えています。
こういう状態で、投球するとどうなるでしょうか?
まず、キャッチャー方向への並進運動が安定しません。
並進運動が前後にぶれます。すると、前足の着地点もずれ、腰の位置や身体のしなりもずれ、リリースポイントもずれます。
結果、球速はでなくなり、コントロールも悪くなります。
無理な動きをするので、身体へ負担もかかります。
次に、静止状態からすでに筋肉が緊張しているため、筋伸張反射がうまく使えません。
なので、球のスピードも出なくなります。
日常生活での立ち方が大事
投球時の立ち方をよくするためには、日常生活での立ち方が大事になります。
自分がちゃんと立てているかどうかは、自分ではなかなか分からないものです。
ずっと前かがみで生活していた人は、自分が前かがみだとは思っていません。
それがまっすぐだと思っているのです。
そして、まっすぐの姿勢に直してあげると、すごく胸を張っているような状態に感じます。
また、スポーツの世界でよく言われる「軸」という概念についても同様で、
体内の軸の感覚が正確であればあるほど、回転運動が正確に行える状態になります。
回転運動が苦手な人は、首や腰などに歪んだ軸意識を持っているのです。
これは、私がやっていた体操では顕著に現れました。
軸の感覚は、捻りといわれる横回転の動作のうまさに直結していました。
自分ではまっすぐな姿勢で真横に回転しているつもりでも、ビデオで見ると、首が前傾して軸が曲がっているのです。
この意識は、練習中だけではなかなか直りません。
なぜなら、練習中の激しい動きでは、他に意識するポイントがたくさんあるからです。
軸を気にすると、他の動きができなくなります。
本当は、軸の意識が保てる範囲で基本的な動作を徹底的に繰り返すべきなのですが、
実際の練習では大会などのスケジュールもあり、そうもいっていられません。
元々、軸感覚のような重要な感覚が正確な人は、つまずくことなくどんどんとうまくなっていきました。
今、そういった感覚がない人は残念ながら大きなハンディーを背負っていることになります。
その場合は、練習だけでは足りません。普段の生活から意識しないでできるようにすべきです。
下半身の強化ではなく、立ち方の安定と柔軟性
球速やコントロールの安定のために、下半身を強化するというのはよく言われますが、
下半身の強化とは筋肉を大きくすることだけではなく、立ち方や、柔軟性のほうが重要なのです。
いくら筋肉を鍛えても、悪い姿勢を支えるために筋肉が常に緊張しているのでは意味がないのです。
よく、腰痛防止のために背筋を筋肉を鍛えろという俗説を聞きますが、
腰痛というのは主に筋肉の慢性的な痛みからきているので、筋肉を開放してあげないことには根本治癒になりません。
背筋を鍛えるより先に、腰に負担のかからないバランスのよい姿勢を作れるようになることが先決です。
このことは、投球動作についても同じです。
また、柔軟性も、故障や球速アップのためには重要な項目です。
地面の力を活かす関節の使い方が無理なくできる稼動域が必要だからです。
身体に起こる問題をなんでもかんでも筋肉量で片付ける風潮はなんとかしてほしいものです。